木育

ボルダリングと木登り、ジャングルジムとツリークライムジム

最近、ボルダリングというスポーツが流行しています。

ボルダリング人工の壁にホールドという手がかりを取付け、登ります。女性や子どもにも人気のあるスポーツです。

私たちが子どもの頃は、高みに登ると言えば、木登りでした。
木登りとこのボルダリングには、落ちるかもしれないという恐怖感と、高度感、登り切った時の達成感という共通点があります。

ところで、少し話が飛びますが「JOSY」を使って、私たちが製作してきた「ジャングルジム」同じ長さのフレームが整然と縦と横に組み合わさっています。もちろん、公園や家庭で見かける「ジャングルシム」も同じです。

このジャングルジム「子供の遊具として慣れ親しまれたもので、これはこれで良いけれど、フレームの高さや巾に違いがあるようなものだと、子供たちにとっては、もっと刺激ある良いものになる。」と、ある時、保育園の園長先生がおっしゃいました。

少し、手を伸ばせば届きそうなフレーム、両足をいっぱいに広げれば、なんとか足りそうな幅広の空間、どこからどう登れば上にあがれるだろうかと、自分の体や力を考えながら、子供たち自身が楽しんで取り組むようになる。

tree_woodsこのとき、私にはボルダリングと木登りの光景が思い浮かびました。そして、これまでのジャングルジムに、ボルダリングと木登りを掛け合わせるハイブリッド化を考えはじめたのです。

まずは、サイズの小さなもので試作してみました。小さなサイズの足をかける高さが異なるジャングルジムを2台作って、組み合わせています。縦横の幅を最低20cmにして、子ども達に危険のないように設計しました。
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狭い場所をくぐったり、高さにいろいろと差をつけることで、「考えながら攻略する」年長さん向けの遊具。私たちは、これを「ツリークライムジム」と名付けました。
子供たちが楽しみながら学ぶ、これが何よりです。近いうち、保育園で使ってみてもらいたいと思います。

木育とは何?

「木育」という言葉、住宅業界におられる方なら、一度は耳にしたことがおありのことでしょう。「木育」を聞いたことのない方でも、「食育」という言葉は聞かれたことはあるでしょう。 木育

「食育」は、「食育基本法」という法律で定義づけがされた言葉です。
それによりますと、「食育」とは、「子供が生活と遊びの中で、意欲を持って食に関わる体験を積み重ね、食べることを楽しみ、食事を楽しみあう子供に成長していくことを期待するもの」とあります。

「食育」は厚労省、「木育」は農水省発です。子供の健やかな成長を願うという願いは同じでも、発信官庁によって、それぞれの目的とするところは、違っているようです。

一方、「木育」という理念は、平成16年に、北海道庁が定めた教育方針の中に初めて出現した新しい言葉です。
その後、平成18年に、国の出した「森林・林業基本計画」の中に、「市民や児童の木材に対する親しみや木の文化への理解を深めるため、多様な関係者が連携・協力しながら、材料としての木材の良さやその利用の意義を学ぶ「木育」とも言うべき木材利用に関する教育活動を促進する。」と記され、定義づけがなされました。
「食育」のそれに比べ、あいまいで、経済優先の色付けが濃いことが伺われます。
これ以後、国内において、「木育」という言葉が歩き出し、各地でさまざまな運動が生まれることとなりました。

「木育」への取り組み方を考える。

私たちの身の回りから、いつのころからか、プラスチックや金属素材の製品が、多くを占めるようになりました。
身近な「住まい」の中でも、本物の木に触れたり見たりする機会が減っています。
昭和50年台頃までは、新築戸建住宅の5割近くが木造住宅であり、ほとんどの家には和室がありました。和室は柱の見える真壁構造でした。背比べの柱の傷の時代です。

そして、平成の今、和風から洋風への住まい方の変化、住宅の高層化とともに、内装、家具、インテリア仕上げ材など、 本物の木の素材が見えないものが多くなっています。

遊び、学びの場からも木が減少しています。遊びはIT化し、塾通いが増え、屋外、自然の中で遊ぶ時間が少なくなりました。
子供をとりまくさまざまな世界で、木に触れる機会が減少しています。

240506tobu009環境や、健康に関心のある大人も木に触れることに疎遠になっています。そして、このままでは、それは子供たちへと連鎖し、木材を使う意義についての意識が薄まり、低くなる傾向はますます、増幅されていくことでしょう。

「木育」という子供に対する教育活動の一つの方針が、「森林・林業基本計画」によって定義づけされた背景を考えますと、国内の木材利用喚起のための政策の一環ととらえられます。

しかし、そうした国の経済先行の方針とは別に、子供のうちに「木」という自然素材に触れさせ、工業化製品にはない、肌触り、香り、美しさ、音など、5感を通して、創造性豊かな人間性を育てることこそ、森林の国「日本」の大人の責任ではないでしょうか。

ALU建築システム研究所も少しだけ、お手伝い  ―― 都会に育つ子供にこそ「木育」

10313815_637588716336186_3867484814762931014_n地元の保育園の園長先生からお話をいただきまして、今年から、「園児」を対象に「木育」のお手伝いを始めました。一年間、10回ほど、木育の時間を持つことになりました。

都会の真ん中の、中層ビルの2階にある、都会っ子たちの保育園です。
最初は、むき出しだったという、コンクリート床の園庭には、人工芝が敷かれ、大型の木製ポットには、先生方が苦心して育てた、桜の木が枝を大きく広げています。
園長先生はじめ園の先生方の、子供たちに少しでも自然素材を身近にさせようという配慮が、エクステリア、室内遊具、設備仕様など、あちこちに伺われます。
そうした、お考えをお持ちの園長先生だからこそ、今回のような企画をされたのでしょう。

さて、本物の木の丸太や板など、今まで見たことも、触ったこともない子供たちです。
初めての時間は、杉やヒノキ、クヌギなどの原木を触ったり、匂いをかいだりしました。重い木を持ってみたりしました。
原木は、英彦山の赤村森林組の方が、山から切ってきてくれました。その、お話もしました。

友人の大工に頼んで、木をカンナで削って見せる時間も作りました。
子供たちは、自分でもカンナで木を削ってみました。もちろん、背後からの補助付きです。
原木の皮を削っていくと、木の中は、真っ白なことを見ました。
子供たちは、カンナから出る、「シュッ、シュッ」という音、カンナ屑の香りや手触りに、どのような思いをいだいたことでしょう。

自分で削った良い香りのするカンナ屑は、袋に入れて、お家へおみやげに持って帰りました。帰ってから、きっと園であったことをお母さんやお父さんにお話をすることでしょう。

テレビやアニメから受ける喜びとはまた違った、喜びや驚きを、子供たちは感じているようです。
元気で素直な子供たちの顔をみますと、私まで元気になります。