木育とは何?

「木育」という言葉、住宅業界におられる方なら、一度は耳にしたことがおありのことでしょう。「木育」を聞いたことのない方でも、「食育」という言葉は聞かれたことはあるでしょう。 木育

「食育」は、「食育基本法」という法律で定義づけがされた言葉です。
それによりますと、「食育」とは、「子供が生活と遊びの中で、意欲を持って食に関わる体験を積み重ね、食べることを楽しみ、食事を楽しみあう子供に成長していくことを期待するもの」とあります。

「食育」は厚労省、「木育」は農水省発です。子供の健やかな成長を願うという願いは同じでも、発信官庁によって、それぞれの目的とするところは、違っているようです。

一方、「木育」という理念は、平成16年に、北海道庁が定めた教育方針の中に初めて出現した新しい言葉です。
その後、平成18年に、国の出した「森林・林業基本計画」の中に、「市民や児童の木材に対する親しみや木の文化への理解を深めるため、多様な関係者が連携・協力しながら、材料としての木材の良さやその利用の意義を学ぶ「木育」とも言うべき木材利用に関する教育活動を促進する。」と記され、定義づけがなされました。
「食育」のそれに比べ、あいまいで、経済優先の色付けが濃いことが伺われます。
これ以後、国内において、「木育」という言葉が歩き出し、各地でさまざまな運動が生まれることとなりました。

「木育」への取り組み方を考える。

私たちの身の回りから、いつのころからか、プラスチックや金属素材の製品が、多くを占めるようになりました。
身近な「住まい」の中でも、本物の木に触れたり見たりする機会が減っています。
昭和50年台頃までは、新築戸建住宅の5割近くが木造住宅であり、ほとんどの家には和室がありました。和室は柱の見える真壁構造でした。背比べの柱の傷の時代です。

そして、平成の今、和風から洋風への住まい方の変化、住宅の高層化とともに、内装、家具、インテリア仕上げ材など、 本物の木の素材が見えないものが多くなっています。

遊び、学びの場からも木が減少しています。遊びはIT化し、塾通いが増え、屋外、自然の中で遊ぶ時間が少なくなりました。
子供をとりまくさまざまな世界で、木に触れる機会が減少しています。

240506tobu009環境や、健康に関心のある大人も木に触れることに疎遠になっています。そして、このままでは、それは子供たちへと連鎖し、木材を使う意義についての意識が薄まり、低くなる傾向はますます、増幅されていくことでしょう。

「木育」という子供に対する教育活動の一つの方針が、「森林・林業基本計画」によって定義づけされた背景を考えますと、国内の木材利用喚起のための政策の一環ととらえられます。

しかし、そうした国の経済先行の方針とは別に、子供のうちに「木」という自然素材に触れさせ、工業化製品にはない、肌触り、香り、美しさ、音など、5感を通して、創造性豊かな人間性を育てることこそ、森林の国「日本」の大人の責任ではないでしょうか。

ALU建築システム研究所も少しだけ、お手伝い  ―― 都会に育つ子供にこそ「木育」

10313815_637588716336186_3867484814762931014_n地元の保育園の園長先生からお話をいただきまして、今年から、「園児」を対象に「木育」のお手伝いを始めました。一年間、10回ほど、木育の時間を持つことになりました。

都会の真ん中の、中層ビルの2階にある、都会っ子たちの保育園です。
最初は、むき出しだったという、コンクリート床の園庭には、人工芝が敷かれ、大型の木製ポットには、先生方が苦心して育てた、桜の木が枝を大きく広げています。
園長先生はじめ園の先生方の、子供たちに少しでも自然素材を身近にさせようという配慮が、エクステリア、室内遊具、設備仕様など、あちこちに伺われます。
そうした、お考えをお持ちの園長先生だからこそ、今回のような企画をされたのでしょう。

さて、本物の木の丸太や板など、今まで見たことも、触ったこともない子供たちです。
初めての時間は、杉やヒノキ、クヌギなどの原木を触ったり、匂いをかいだりしました。重い木を持ってみたりしました。
原木は、英彦山の赤村森林組の方が、山から切ってきてくれました。その、お話もしました。

友人の大工に頼んで、木をカンナで削って見せる時間も作りました。
子供たちは、自分でもカンナで木を削ってみました。もちろん、背後からの補助付きです。
原木の皮を削っていくと、木の中は、真っ白なことを見ました。
子供たちは、カンナから出る、「シュッ、シュッ」という音、カンナ屑の香りや手触りに、どのような思いをいだいたことでしょう。

自分で削った良い香りのするカンナ屑は、袋に入れて、お家へおみやげに持って帰りました。帰ってから、きっと園であったことをお母さんやお父さんにお話をすることでしょう。

テレビやアニメから受ける喜びとはまた違った、喜びや驚きを、子供たちは感じているようです。
元気で素直な子供たちの顔をみますと、私まで元気になります。

日本の山を元気にする取り組み・・・木の駅プロジェクト

陽の当たる林国内では、安い価格の外国産木材に押され、長い間、国産木材の販売不振が続いています。そのため森林経営が苦しく、間伐などの山の手入れが行き届かなくなり山は荒れ放題となっています。

人工林は、放置されて間伐されませんと、木が込み合い、枝が繁り、日光が林の中に入らなくなります。
その結果、下草が育ちにくい環境になります。落ち葉や下草から作られる土壌が形成されませんと、少しの雨で、土砂崩れが起きやすくなります。
人工林は、杉やヒノキなどの針葉樹が多く、根が直根型で、広く根を張らないという性質であることも、土砂崩れが起こりやすい原因の一つになっています。

陽の当たらない林右の写真は、手入れが行き届かなく、陽当たりの悪い林です。
国内では、時おり、集中豪雨が引き金で地滑りが発生し、被害が発生しています。この原因の一つに、山の手入れがおろそかになっていることが指摘されています。

林業振興、国産材利用推進のために、国や自治体では、さまざまな施策を打ち出していますが、補助金制度にも予算の限度があり、何しろ、価格の国際競争という市場原理が根本問題ですから、決定打がなく、険しい道のりです。
国産材を使うと多少高くつくけど、みんなで少しずつでも使おうという、国民的盛り上がりを画策せねばなりません。
ジャングルジム 顔上向き当事務所の、オリジナル商品「JOSY」のフレームも杉間伐材を標準仕様とし、国産木材の活性化のため、まことに微々たるものではありますが、協力させていただいております。
左の写真は、九州、日田地方の杉を使用した、国内初の木製ジャングルジムです。

今回は、ユニークな考えで、森林整備と地域経済の活性化を目的に活動されている、「木の駅プロジェクト」についてご紹介します。

山には、放置された木(林地残材)がたくさんあります。
この木を自分たちで伐採して、農家の方が「道の駅」に大根やニンジンを出荷するのと同じように、地域に設けられた「木の駅」に運搬・出荷するシステムです。
集荷された木は、チップ工場などが買い上げます。
「道の駅」での野菜の出荷量がそれほど、大量ではないように、各人が、1回に出荷する木の量も多くはありません。軽トラックに載せて出荷する程度の量です。しかしながら、軽トラックでも、回数や、台数がまとまれば、合計の出荷量は大きなものとなります。出荷の調整も、簡単に出来ます。
「木の駅」がうまく機能している地域では、伐採された丸太を載せた軽トラックが、何十台も連なる、見事な軽トラ軍団を見ることができます。

山がきれいになり、町が元気になり、奥さんや孫にお小遣いがやれるようになり、地球温暖化にも役立つという、まさに、いいとこどりのプロジェクトです。

木の駅プロジェクトhttp://kinoeki.org/
そのイメージは、下の図のようなものです。(木の駅プロジェクトさんからお借りしました。)
個人地主や森林組合が、山の木を「木の駅」に出荷する。→その代金は、地域貨幣で支払われる。→集荷された木は契約先のチップ工場やバイオマス発電所などが買い取る。 →地域貨幣は、地元の商店街で利用される、というものです。

この事業は、高知県のNPO団体「土佐の森救援隊」が、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とリンクして成功を収めている林地残材収集システムの一部を、大規模プラントがなくても全国どこでも導入できる形にして移築するという社会実験です。
kinoekipro現在、全国の30以上の地域で活動中ということです。もしかしたら、皆さんのお近くでも、木の駅プロジェクトをやっているところがあるかもしれません。